【相続】 自筆証書である遺言書の文面全体に故意に斜線を引く行為

2016-08-02

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したものとみなすとされています(民法1024条前段)。一般的には、遺言書を焼却、切断したときなどがこれに該当するとされています。
では、遺言者が自筆証書遺言である遺言書の文面全体に故意に斜線を引いた場合、遺言書を破棄したときに該当するとして遺言を撤回したものとみなされるのでしょうか。

民法は、遺言書の内容を変更する場合、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に押印しなければ変更の効力が生じないと規定しています(民法968条2項)。
そこで、遺言書に斜線を引いた場合、元の文字が判読できるため、遺言書の「破棄」ではなく「変更」に当たるものの、上記変更の方式に従っていないため変更の効力が認められず、遺言は元の文面のものとして有効となるのではないかが問題になります。

この点について、近時、最高裁判所が遺言書の破棄に当たると判断しましたので、ご紹介します(最高裁平成27年11月20日判決)。
以下、判決文の引用です。

「・・・民法は,自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について,それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には,968条2項所定の厳格な方式を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で,それが遺言書の破棄に当たる場合には,遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすこととしている(1024条前段)。そして,前者は,遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから,遺言書の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば,民法968条2項所定の方式を具備していない限り,抹消としての効力を否定するという判断もあり得よう。ところが,本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のものとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから,その行為の効力について,一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。
以上によれば,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり,これによりA(筆者注・遺言者のことです)は本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって,本件遺言は,効力を有しない。」
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/488/085488_hanrei.pdf

このように最高裁は遺言書の破棄に当たると判示しましたが、遺言者が故意に赤色ボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引いた(文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線が引かれていたようです)という事実関係の下での判断です。
ご自身が亡くなった後の相続人間の無用な対立を防ぐため、自筆証書による遺言書の内容を変更する場合は、民法所定の変更の方式に従って遺言書を変更するか、改めて遺言書を書き直して古い遺言書はシュレッダーで処分するなど、疑義を残さない遺言書にしておきたいものです。

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