Archive for the ‘成年後見’ Category

売買取引の相手方の判断能力低下と取引中止義務について

2023-03-25

高齢化社会に伴い、お年寄りの判断能力が低下していることに付け込んで業者が商品を次々に販売する「次々販売」に関する問題が生じております。例えば、高齢者が内装工事業者の訪問を受け、次々と自宅の室内設備交換の契約をしてしまったといった事例があります。

このような次々販売について、近時の裁判例で、販売業者に取引をいったん中断すべき信義則上の注意義務があると判示したものがあります(東京地裁令和2年1月29日判決)。
当該事例は、昭和7年生まれの男性に対して、宝飾品等の販売を行う業者が、平成21年2月から平成28年3月までの間、過量かつ不必要な宝飾品等を繰り返して販売したというもので、男性が業者に対して、かような行為が不法行為を構成するとして損害賠償請求を求めたものです。

裁判所は、売買取引が客観的に買主にとってその生活に通常必要とされる分量を著しく超えた過大なものであったからといって、当該取引が当然に売主の買主に対する不法行為を構成するものではないとしつつも、本件においては業者の認識や男性の判断能力の程度等の事情から、業者には社会通念に照らし、信義則上、男性との取引をいったん中断すべき注意義務を負っていると判示し、その後も取引を継続したことは、社会通念上許容されない態様で男性の利益を侵害したものとして違法と評価されるべきものであると判示しました。

裁判例で判示されているように、業者の責任を問うためには、信義則上の注意義務を認定してもらうことが必要になってきます。被害回復は必ずしも容易ではないので、判断能力が低下している高齢者がいらっしゃる場合は、弁護士に財産管理を依頼する方法や、後見・保佐等の制度の利用を検討し、高齢者の財産確保に努めることが必要です。

弊所では、高齢者の財産管理や、後見・保佐の申立て等も扱っておりますので、お気軽にご相談ください。

【成年後見】 成年後見制度が一部改正されました~その2

2016-09-09

 成年後見制度が一部改正されました~その1では、成年被後見人宛の郵便物に関する取扱いについてご説明いたしました。本コラムでは、成年被後見人が亡くなった場合の相続財産に関する取扱いについてご説明いたします。

    成年被後見人が死亡した場合、成年後見は当然に終了し、成年後見人は法定代理権等の権限を喪失するのが原則です。しかし、実際には、成年被後見人の死亡後も成年後見人が医療費の支払や公共料金の支払等の死後事務を求められ、対応に苦慮する場面がありました。
 民法上、委任が終了した場合において急迫の事情があるときは、受任者等は委任者等が委任事務を処理することができるに至るまで必要な処分をしなければならないとされ(民法654条)、同条が後見において準用されていることから(民法874条)、この規定を根拠に死後事務を行うことも考えられます。しかし、「急迫の事情があるとき」「必要な処分」といった要件が付されており、成年後見人が行うことができる範囲が必ずしも明確ではありません。
 そこで、今般の法改正により、個々の相続財産の保存行為、弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結といった一定範囲の死後事務を行うことが成年後見人の権限に含まれることが明らかにされました。

 即ち、改正法においては、死後事務を、

①相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
②相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る)の弁済
③成年被後見人の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(①②を除く)

の3つに分類し、成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、①~③の行為をすることができるとされました。もっとも、③については相続人に与える影響が大きいため、家庭裁判所の許可が必要とされました。
 なお、②の対象となる債務としては、医療費や家賃の支払等が考えられます。当然のことながら債務が存在することが前提であり、また、本来、債務の弁済は相続人がするものですから、債務の存否について疑義がある場合は弁済すべきではないと考えられます。
 また、②に基づき弁済する場合であっても、弁済資金を捻出するために成年被後見人名義の口座から払戻しを受ける行為は③に該当し、家庭裁判所の許可が必要とされているので注意が必要です。

 なお、上記改正により死後事務を行うことができるのは成年後見人のみであり、保佐人・補助人は含まれないとされていることにも注意が必要です。保佐人・補助人は特定の法律行為について同意権、取消権、代理権を与えられているに過ぎないので、保佐人・補助人に死後事務に関する権限を与えると、保佐人・補助人の権限が拡大することになりかねず相当でないからとされています。

【成年後見】 成年後見制度が一部改正されました~その1

2016-09-01

 認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理や日常生活等に支障がある人達を社会全体で支え合うことは、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資すること、及び成年後見制度はこれらの人達を支える重要な手段です。しかし、同制度が十分に利用されていないことに鑑み、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」が成立し、平成28年4月15日に公布、同年5月13日に施行となりました。
 この法律では、その基本理念を定め、国の責務等を明らかにし、基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、成年後見制度利用促進会議及び成年後見制度利用促進委員会を設置すること等により、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的かつ計画的に推進することが目的とされました。

 また、これに関連して、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立しました。この法律は、平成28年4月13日に公布され、施行期日は同年10月13日となっています。この法律により、成年後見人の事務に関して、成年被後見人宛の郵便物に関する取扱いや、成年被後見人が亡くなった場合の相続財産に関する取扱い等が改正されました。本コラムでは、前者についてご説明いたします。

 成年被後見人宛の郵便物の中には、株式の配当通知や金融機関からの通知などが含まれていることがあり、これらは、成年被後見人の財産状況の把握や財産管理のための有力な資料となります。しかし、これまでは成年被後見人宛の郵便物を成年後見人宛に回送することができる旨の規定がなく、成年被後見人の財産管理に支障が生じるおそれがありました。そこで、この問題を解決するために郵便物の回送に関する規定が新設されました。

 これにより、家庭裁判所は、成年後見人の申立てに基づき、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物等を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができるものとされました。そして、成年後見人は、回送された郵便物を開いて見ることができる旨が規定されました。
 また、成年後見人は、受け取った郵便物のうち成年後見人の事務に関しないものは速やかに成年被後見人に交付しなければならないものとされ、成年被後見人は成年後見人に対し、成年後見人が受け取った郵便物の閲覧を求めることができるものとされました。

 なお、嘱託の期間は6か月を超えることができないものとされていますが、これは憲法で保障されている通信の秘密に配慮したものです。
 また、この規定は後見類型のみが対象とされており、保佐・補助については対象外とされています。保佐・補助の場合は、被保佐人・被補助人が郵便物について自ら相応の管理をすることができること、保佐人・補助人は家庭裁判所から与えられた代理権の行使に必要な範囲で財産管理をするものであるため、保佐・補助についてまで郵便物の回送を認めることは通信の秘密を不当に侵害することになりかねないからとされています。

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