【相続】 自筆証書遺言の押印はどこにする?

2017-04-06

自筆証書遺言をする場合、遺言者はその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印しなければならないとされています(民法968条1項)。この押印は、署名のすぐ後にするのが通常であり(契約書などでもそうですね)、それが我が国の慣行や法意識に合致する押印の仕方といえます。
そのような押印で自筆証書遺言の要件を満たすのはもちろんですが、では、押印が署名のすぐ後にされていなかった場合、自筆証書遺言は無効となってしまうのでしょうか。

この点について、署名はあるが押印がない遺言書本文を入れた封筒の封じ目の押印をもって自筆証書遺言の押印として足りるとした最高裁判例があります(平成6年6月24日判決)。同判決は、その理由を特に述べておりませんが、文書の完成を担保するとの趣旨を損なわない限り押印の位置は必ずしも署名下であることを要しないものと解されているようです。

したがいまして、押印が署名のすぐ後にされていなかったとしても直ちに自筆証書遺言が無効になるわけではありません。近時の裁判例でも、
①自筆証書遺言が、ステープラーで留められた2枚の書面と封筒からなるところ、遺言者の署名下に押印はないものの1枚目の裏面と2枚目の表面にまたがり遺言者の実印により契印されていた
②遺言書が無地の封筒に入れられ、その綴じ目には「〆」の文字と共に遺言者の実印と矛盾しない印が押印されていたが(印影が不鮮明だったため実印とは認定されていません)、家庭裁判所による検認時には封がされていない状態であった
という事案において、①の事実をもって自筆証書遺言の有効性を認めたものがあります(東京地判平成28年3月25日。②の事実は自筆証書遺言を有効とする根拠とはなっていません)。

ただし、逆に常に遺言書が有効となるわけでもありません。例えば、遺言書本文に押印のない事案において、押印のある封筒と遺言書との一体性が認められないことを理由に自筆証書遺言を無効とした事案もあります(東京高判平成18年10月25日)。
したがいまして、自筆証書遺言に押印する際は、署名のすぐ後に押印して疑義を残さないようにしておくことが大切です。

Copyright(c) 2019 小野貴朗総合法律事務所 All Rights Reserved.