Archive for the ‘相続’ Category

寄与分について

2018-04-20

共同相続人中に、身分関係や親族関係から通常期待される以上に被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるとき、その寄与者の相続分に寄与分額が加算されることがあります。この特別の寄与を評価して算出した割合や金額のことを寄与分といいます。
寄与分が認められるということは法定相続分を修正することになりますので、修正するに足りるほどの特別の寄与があったという事情を立証することが必要です。また、寄与行為が財産上の効果と結びつかない場合、すなわち、精神的な援助、協力が存在するだけでは寄与分は認められません。あくまでも被相続人の財産の維持又は増加という財産上の効果があったことが必要となります。

寄与分が問題になる類型としては、療養看護型、家業従事型、金銭等出資型、財産管理型、扶養型など様々な類型がありますが、例えば療養看護型の場合、以下の要件を満たすことが必要とされています。

① 療養看護の必要性
療養看護を必要とする病状であったこと、及び近親者による療養看護を必要としていたことが必要です。高齢というだけでは療養看護が必要な状態だったとはいえません。また、入院や施設に入所していた場合、その期間は原則として寄与分が認められません。

② 特別な貢献
被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える特別の寄与であることが必要です。同居やそれに伴う家事分担だけでは特別の寄与とはいえません。

③ 無償性
無報酬又はそれに近い状態でなされていることが必要です。逆に、無報酬又はそれに近い状態であっても、被相続人の資産や収入で生活していた場合は認められないことがあります。

④ 継続性
療養看護が相当期間に及んでいることが必要であり、少なくとも1年以上を必要としている場合が多いようです。

⑤ 専従性
療養看護の内容が片手間なものではなく、かなりの負担を要するものであることが必要です。仕事のかたわら通って介護した場合などは親族としての協力の範囲であって特別の寄与とはいえません。

⑥ 財産の維持又は増加との因果関係
療養看護により、職業看護人に支払うべき報酬等の看護費用の出費を免れたという結果が必要です。

これらの要件を見てみますと、療養看護型において寄与分が認められるハードルは低くないといえますが、個別具体的な事案によって判断が異なってくることも考えられます。上記の類型によっても異なってくるので、詳細はご相談ください。

遺骨は誰のもの?

2017-09-14

遺骨の所有権について考えたことはありますでしょうか。

かつて判例は、遺骨は相続財産として相続人の所有に帰すると解していました。しかし、遺骨は被相続人の所有の客体ではないことから、相続人の所有とするという結論には多くの批判がありました。
学説では、遺骨は相続の対象にならず、慣行上の喪主に帰属するという説もありました。しかし、喪主は葬儀・埋葬のために必要な管理処分権を有するにすぎず、それ以上の権利帰属を認めることについても批判がありました。他方、遺骨は祭祀目的のものとして祭祀財産に準じて扱い、祭祀主宰者に取得を認めるとする学説もありました。

その後、判例は、遺骨は祭祀主宰者に帰属するものと認めるに至ったため、現在の実務においては、遺骨は祭祀主宰者に帰属するとされるようになりました。したがって、祭祀主宰者として遺骨を埋蔵し管理している者は、親族から遺骨の引渡を要求されても、これに応じるか拒絶するかを自由に決めることができます。

なお、祭祀主宰者は、祖先の家系図、位牌、仏壇、墳墓などの祭祀財産を承継します。祭祀主宰者は、まず被相続人の指定により定まります。指定の方法については特に定めがなく、口頭・書面、明示・黙示を問わず、生前行為、遺言のいずれでも良いとされています。被指定者の資格についても制限はありません。
被相続人の指定がなければ、被相続人の出身地などの慣習に従って定められます。祭祀主宰者について被相続人の指定がなく、慣習も明確でない場合は、家庭裁判所の審判で決定されます。

祭祀財産は、戦前は家督相続人が独占的に承継していました。戦後、家督相続が廃止され遺産相続に一本化された後も、なお一般の相続原則の例外として祭祀主宰者が承継するとされた趣旨は、従来からの慣行や国民感情に配慮したこと、祭祀財産は分割相続になじまないことにあるとされています。

死後事務委任契約について

2017-09-01

自分が亡くなった後の諸々の手続は誰がしてくれるのでしょうか。想定される手続としては、遺体の引取、死亡届の提出、葬儀、埋葬、関係機関への死亡の届出、医療費の支払、世話になった人への謝礼、年忌法要等が考えられます。通常は家族が無償で行ってくれるでしょうが、例えば、独身の人、結婚しているが子どもがない人、親族と疎遠な人、親族が信用できない人の場合はどうしたら良いのでしょうか。一人暮らしで自宅を賃借していた場合、誰が大家さんに物件の引渡をしてくれるのでしょうか。最近ではSNSやパソコンの後処理を気にされる方も増えています。

このような場合に登場するのが死後事務委任契約です。これは、委任者が第三者に対して、亡くなった後の諸手続についての代理権を付与して死後事務を委任するものです。死後事務を依頼する方法としては遺言も考えられますが、葬儀や埋葬方法等について遺言執行者に法的な強制を及ぼすことはできません。負担付き遺贈という形で依頼することも考えられますが、受遺者が放棄して死後事務処理の負担を免れることができてしまうという難点があります。そこで、死後事務委任契約という方法が提唱されています。

ただ、死後事務委任契約も、委任者の相続人との関係で法律上の問題点があるため、委任者の死亡後に相続人と受任者との間でトラブルになる可能性もあります。契約内容を吟味する必要があるので、詳細は弁護士にお問い合わせください。

推定相続人の廃除について

2017-08-01

相続において一定の相続人には遺留分といって最低限遺産を保持できる権利が認められており、遺言によってもこれを奪うことはできないとされています。しかし他方、民法は、推定相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱をしたり、推定相続人に著しい非行があったときは、一定の手続を取ることにより相続人としての資格を失わせることができる(遺留分も認められない)と定めています。これを「推定相続人の廃除」といいます。

廃除をするための要件ですが、まず、①廃除される者は遺留分を有する推定相続人であることが必要です。遺留分を有しないのは兄弟姉妹のみですが、兄弟姉妹に遺産を相続させたくないのであれば、その旨の遺言を書いておけば足ります。そこで、民法上、廃除をするためには遺留分を有することが要件となっています。

次に、②廃除される者に廃除事由があることが必要です。廃除事由は、被相続人に対する虐待又は重大な侮辱があることや、推定相続人に著しい非行があることです。
ここでいう虐待又は重大な侮辱とは、被相続人に対して精神的苦痛を与え、又は名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と当該推定相続人との家族的協同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるものとされています。その程度については、被相続人の主観的な感情、意思に左右されることなく、客観的に判断されます。
具体的には、
◇大学に入って遊びを覚え、賭け事、バー通い、女遊びなどで学業がおろそかになり大学を中退し、その後は就職しても長続きせず、親から生活費の送金を受けるも無心を繰り返し、これに応じないときは暴力を振るった
◇父の金員を無断で費消したり、通信販売による物品購入代金を父に負担させたりしながら、これを注意されると暴力を振るい、また、勤務先の会社の使い込み金の弁償等も父に負担させ、さらにサラ金業者から多額の借金をしながら、父の家を出て所在不明になり、何の連絡も取っていない
といった行為が裁判例において廃除事由ありとされています。

廃除の手続についてですが、生前に家庭裁判所に申し立てる方法と、遺言による方法があります。遺言で廃除を求める場合、相続が開始して遺言が効力を生じた後、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の申立てをすることになります。つまり、遺言執行者を決めておく必要があります。

【相続】 法定相続情報証明制度が始まります

2017-05-25

本年5月29日から、相続人の必要情報を1通の書面にまとめ、各種相続手続を簡便化する「法定相続情報証明制度」がスタートします。

現在、不動産の相続登記、銀行口座の解約などの相続手続をするためには、相続人が大量の戸籍謄本等の書類を取り寄せて、相続手続を取り扱う窓口ごとに何度も提出しなければなりません。不動産が複数存在する場合、相続対象となる不動産を管轄する登記所ごとに書類一式を提出して返却を受けるということを繰り返す方法が取られていますが、そのような方法だと全ての不動産の相続登記が完了するまでに時間もかかり大変煩雑です。このような煩雑な手続のために相続登記が未了のまま放置されるケースも多くなっており、所有者不明の不動産問題や空き家問題の一因になっていると指摘されていました。

「法定相続情報証明制度」では、管轄の登記所(申出をすることができる登記所は、①被相続人の本籍地、②被相続人の最後の住所地、③申出人の住所地、④被相続人名義の不動産の所在地、を管轄する登記所のいずれかとされています)に、相続人全員分の戸籍謄本や法定相続情報一覧図(相続関係を一覧に表した図です)などの書類を揃えて提出すると、登記官が認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを無料で交付してくれます。この写しを利用することで、関係書類を何度も窓口に提出する手間が省けるとされています。

詳細については弁護士にお問い合わせください。

【相続】 自筆証書遺言の押印はどこにする?

2017-04-06

自筆証書遺言をする場合、遺言者はその全文、日付及び氏名を自書し、これに押印しなければならないとされています(民法968条1項)。この押印は、署名のすぐ後にするのが通常であり(契約書などでもそうですね)、それが我が国の慣行や法意識に合致する押印の仕方といえます。
そのような押印で自筆証書遺言の要件を満たすのはもちろんですが、では、押印が署名のすぐ後にされていなかった場合、自筆証書遺言は無効となってしまうのでしょうか。

この点について、署名はあるが押印がない遺言書本文を入れた封筒の封じ目の押印をもって自筆証書遺言の押印として足りるとした最高裁判例があります(平成6年6月24日判決)。同判決は、その理由を特に述べておりませんが、文書の完成を担保するとの趣旨を損なわない限り押印の位置は必ずしも署名下であることを要しないものと解されているようです。

したがいまして、押印が署名のすぐ後にされていなかったとしても直ちに自筆証書遺言が無効になるわけではありません。近時の裁判例でも、
①自筆証書遺言が、ステープラーで留められた2枚の書面と封筒からなるところ、遺言者の署名下に押印はないものの1枚目の裏面と2枚目の表面にまたがり遺言者の実印により契印されていた
②遺言書が無地の封筒に入れられ、その綴じ目には「〆」の文字と共に遺言者の実印と矛盾しない印が押印されていたが(印影が不鮮明だったため実印とは認定されていません)、家庭裁判所による検認時には封がされていない状態であった
という事案において、①の事実をもって自筆証書遺言の有効性を認めたものがあります(東京地判平成28年3月25日。②の事実は自筆証書遺言を有効とする根拠とはなっていません)。

ただし、逆に常に遺言書が有効となるわけでもありません。例えば、遺言書本文に押印のない事案において、押印のある封筒と遺言書との一体性が認められないことを理由に自筆証書遺言を無効とした事案もあります(東京高判平成18年10月25日)。
したがいまして、自筆証書遺言に押印する際は、署名のすぐ後に押印して疑義を残さないようにしておくことが大切です。

【相続】 預貯金債権も遺産分割の対象となりました

2016-12-20

ニュースなどで取り上げられておりましたが、昨日最高裁判所において遺産分割における預貯金債権の取扱いに関する決定が出されました。

(全文)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf

結論としては、普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になるというものです(裁判官全員一致の意見)。

本事件では普通預金、ゆうちょ銀行の通常貯金及び定期貯金が対象となっていたことから、最高裁は、それぞれの預貯金債権について分けて検討しており、それぞれ以下の理由が挙げられています。

1.普通預金債権、通常貯金債権

・普通預金契約及び通常貯金契約は、一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者がいつでも自由に預入れや払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われるたびにその額についての消費寄託契約が成立するが、その結果発生した預貯金債権は、口座の既存の預貯金債権と合算され、1個の預貯金債権として扱われるものであること
・このように、普通預金債権、通常貯金債権は、いずれも1個の債権として同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものであり、この理は預金者が死亡した場合においても異ならないこと
・これらの債権は口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解されること
・相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎないこと
・預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され、その後口座に入金が行われるたびに各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に、入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは、預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり、その合理的意思に反すること

2.定期貯金債権

・定期貯金の前身である定期郵便貯金につき、郵便貯金法は、一定の預入期間を定め、その期間内には払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものと定め、原則として預入期間が経過した後でなければ貯金を払い戻すことができず、例外的に預入期間内に貯金を払い戻すことができる場合には一部払戻しの取扱いをしないものと定めていること
・郵政民営化法の施行により、日本郵政公社は解散し、その行っていた銀行業務は株式会社ゆうちょ銀行に承継され、ゆうちょ銀行は、通常貯金、定額貯金等のほかに定期貯金を受け入れているところ、その基本的内容が定期郵便貯金と異なるものであることはうかがわれないから、定期貯金についても、定期郵便貯金と同様の趣旨で、契約上その分割払戻しが制限されているものと解されること
・この制限は、単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきであること
・定期貯金債権が相続により分割されると解すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反すること
・仮に定期貯金債権が相続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず、単独でこれを行使する余地はないので、そのように解する意義は乏しいこと

このように、最高裁は各預貯金債権の内容及び性質から結論を導いています。この結論を導いた背景として、一般的には遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましいこと、現金のように評価についての不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在するところ、預貯金が現金に近いものとして想起されること、といった観点も踏まえられているようです。

今回の最高裁決定は、今までの最高裁判例(預金債権は当然に分割されるとの立場)と銀行実務の取扱い(相続人全員の同意がなければ払戻に応じない)との齟齬を修正するものとして大きな意味があるといえるでしょう。ただ、裁判官の意見において、被相続人の生前に扶養を受けていた相続人が預貯金を払い戻すことができず生活に困窮する、被相続人の入院費用や相続税の支払に窮するといった事態が生ずるおそれがあること等が指摘されています(この点に対しては、補足意見において、遺産分割の審判事件を本案とする保全処分として、例えば、特定の共同相続人の急迫の危険を防止するために、相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる仮処分等を活用することが考えられる、とされています)。

最高裁判例が出たばかりですので、今後の実務の動向等に注目していきたいと思います。

【相続】 相続放棄したらそれで終わりですか?

2016-11-27

相続放棄というのは、亡くなった人に借金があってプラスの財産より多い場合に、相続人が借金の支払いを免れるためにある制度です。相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。

では、相続放棄をすれば、後のことは我関せずで良いのでしょうか?

民法上、相続放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意義務をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされています。また、それと共に、相続放棄をした者には、事務処理状況の報告義務、財産の引渡義務も課せられています(民法940条)。注意義務に反する管理行為によって相続財産に損害を生じさせた場合は、その賠償責任を負います。

これは、相続財産が管理されないまま放置されてしまうと、他の相続人、次順位の相続人、相続債権者などに損害を与えるおそれがあるので、無管理状態による相続財産の滅失毀損を防止するため、相続放棄をした者に一定期間相続財産を管理する法的責任を負わせているのです。

例えば、亡くなった人が空き家を所有していた場合を想定すると分かりやすいかと思います。この場合、相続放棄したからといって空き家をほったらかしにして良いことにはなりません。
相続放棄をした者は、他の相続人(同順位の相続人がいない場合は次順位の相続人)に空き家の管理を始めてもらうため速やかに連絡して引き継いでもらう必要があります。それまでの間は空き家を管理しなければなりません。
次順位の相続人も相続放棄して相続人が不存在となる場合には、相続財産の管理人が選任されて職務を開始するまで相続放棄をした者の管理義務が継続しますので、相続財産管理人の選任申立てを検討する必要があるでしょう。

なお、相続放棄をした者と第三者との関係についてはどうでしょうか。例えば、前記の事例で、管理不十分のため空き家が倒壊して隣家に損害を与えた場合です。隣家の人が管理義務違反を理由に損害賠償請求してくることが考えられます。

この場合、民法940条が第三者との関係でも根拠条文になるかははっきりしないように思うのですが(民法940条の趣旨が、他の相続人や相続債権者の保護を目的としていることや、民法940条が準用する委任規定における委任者が相続人と解されているため)、第三者との関係では不法行為責任(民法709条、民法717条)を負う可能性が考えられますので、いずれにせよ結論として損害賠償責任を負う可能性があることに変わりはないように思われます(個人的な見解です)。

相続放棄は大変ありがたい制度ですが、相続放棄して一件落着で終わらない場合があります。相続財産の内容などを吟味する必要がありますので、判断に迷ったときは弁護士にご相談ください。

【相続】 遺留分の放棄について

2016-09-24

遺留分とは、一定の相続人のために、相続に際して法律上取得することが保障されている遺産の一定割合のことをいい、遺族の生活保障といった観点から認められています。遺留分権利者は、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者・子・直系尊属)です。
この遺留分を侵害した贈与や遺贈などは法律上当然に無効となるわけではありませんが、遺留分権利者が減殺請求をした場合、その遺留分を侵害する限度で効力を失うことになります。

他方、この遺留分は放棄することもできます。相続が発生した後においては、遺留分を放棄することは自由です。これに対して、相続開始前に遺留分を放棄するには家庭裁判所の許可が必要です。
家庭裁判所の許可を得るためには、遺留分権を有する相続人が、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、遺留分放棄の許可審判申立てをします。

家庭裁判所の許可基準としては、①遺留分権利者の自由意思に基づくこと、②放棄理由の合理性・必要性・代償性が挙げられており、事案に応じた判断になります。

なお、司法統計によると、全家庭裁判所における遺留分放棄の許可審判申立てについて、
・平成27年度は、既済総数1152件のうちの1076件が認容
・平成26年度は、既済総数1193件のうちの1135件が認容
となっており、9割以上が認容となっています。

遺留分放棄許可の審判があると、申立てをした相続人の遺留分権はなくなります。しかし、相続人でなくなったわけではありません。被相続人としては自己の財産を自由に処分できるようにしておくのが目的でしょうから、別途遺言書を作成して自己の財産の処分について取り決めておく必要があります。
また、遺留分を放棄したからといって債務が承継されないことにはならないので、仮に債務を承継したくない場合は、相続放棄の手続を取る必要があります。

遺留分放棄の許可審判申立てをする場合、許可基準に合致する事実関係を拾い上げて申立書に反映させていく必要があります。遺留分放棄について検討されている方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

【相続】 自筆証書である遺言書の文面全体に故意に斜線を引く行為

2016-08-02

遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については遺言を撤回したものとみなすとされています(民法1024条前段)。一般的には、遺言書を焼却、切断したときなどがこれに該当するとされています。
では、遺言者が自筆証書遺言である遺言書の文面全体に故意に斜線を引いた場合、遺言書を破棄したときに該当するとして遺言を撤回したものとみなされるのでしょうか。

民法は、遺言書の内容を変更する場合、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に押印しなければ変更の効力が生じないと規定しています(民法968条2項)。
そこで、遺言書に斜線を引いた場合、元の文字が判読できるため、遺言書の「破棄」ではなく「変更」に当たるものの、上記変更の方式に従っていないため変更の効力が認められず、遺言は元の文面のものとして有効となるのではないかが問題になります。

この点について、近時、最高裁判所が遺言書の破棄に当たると判断しましたので、ご紹介します(最高裁平成27年11月20日判決)。
以下、判決文の引用です。

「・・・民法は,自筆証書である遺言書に改変等を加える行為について,それが遺言書中の加除その他の変更に当たる場合には,968条2項所定の厳格な方式を遵守したときに限って変更としての効力を認める一方で,それが遺言書の破棄に当たる場合には,遺言者がそれを故意に行ったときにその破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすこととしている(1024条前段)。そして,前者は,遺言の効力を維持することを前提に遺言書の一部を変更する場合を想定した規定であるから,遺言書の一部を抹消した後にもなお元の文字が判読できる状態であれば,民法968条2項所定の方式を具備していない限り,抹消としての効力を否定するという判断もあり得よう。ところが,本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は,その行為の有する一般的な意味に照らして,その遺言書の全体を不要のものとし,そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であるから,その行為の効力について,一部の抹消の場合と同様に判断することはできない。
以上によれば,本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は,民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり,これによりA(筆者注・遺言者のことです)は本件遺言を撤回したものとみなされることになる。したがって,本件遺言は,効力を有しない。」
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/488/085488_hanrei.pdf

このように最高裁は遺言書の破棄に当たると判示しましたが、遺言者が故意に赤色ボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引いた(文面全体の左上から右下にかけて赤色のボールペンで1本の斜線が引かれていたようです)という事実関係の下での判断です。
ご自身が亡くなった後の相続人間の無用な対立を防ぐため、自筆証書による遺言書の内容を変更する場合は、民法所定の変更の方式に従って遺言書を変更するか、改めて遺言書を書き直して古い遺言書はシュレッダーで処分するなど、疑義を残さない遺言書にしておきたいものです。

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